食品業界におけるDXの現状は?DXで解決したい課題や成功事例も紹介

食品業界におけるDXの現状は?DXで解決したい課題や成功事例も紹介

DX推進はあらゆる業界に求められている取り組みです。食品業界においてもDXはもちろん必要ですが、実際の進捗状況はどうなっているのでしょうか。

本記事では、食品業界におけるDXの現状を紹介します。食品業界に存在する、人手不足や品質管理などの従来の課題を解決する方策としてもDXは有効です。食品業界にどのような課題があり、DXがどのように課題解決につながるのか、また食品業界のDX事例をあわせてお伝えします。

食品業界でのDX推進状況

業界を問わずDX推進が求められるなか、食品業界でもDX推進が必要とされています。食品業界のDXの現状について確認しましょう。

総務省の「令和3年版情報通信白書」によると、日本の企業における「デジタル・トランスフォーメーションの取組状況」についての回答割合は以下のとおりです。

  • 「2018年度以前から実施している」15.1%
  • 「2019年度から実施している」3.8%
  • 「2020年度から実施している」3.9%
  • 「実施していない、今後実施を検討」17.8%
  • 「実施していない、今後も予定なし」59.3%

業種別の取り組み状況を見てみましょう。「食品業界」に関係すると思われる「農業、林業」「漁業」「製造業」「卸売業、小売業」の数字は、以下のとおりです。

デジタル・トランスフォーメーションの取組状況(日本:業種別)

参照:総務省|令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況

また、富士電機株式会社が実施した「食品製造業のDXに関する意識調査」では、以下のような結果が出ています。

「デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉の普及状況」についての回答割合

  • 「全社的に利用されている」10.6%
  • 「経営層でのみ使われている」7.4%
  • 「一部の部門・部署で使われている」18.0%
  • 「あまり使われていない」42.2%
  • 「わからない」21.8%

「デジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組み・実施状況」についての回答割合

  • 「現在取り組んでいる」13.6%
  • 「今後取り組む予定がある」15.6%
  • 「必要性は感じているが、取り組んでいない」21.2%
  • 「取り組んでおらず、必要性も感じていない」26.8%
  • 「わからない」22.7%

引用:食品製造業におけるDXに関する意識調査(2021年)(PDF)|富士電機

日本は欧米と比べてDXが遅れているといわれています。上の結果を見ても、食品業界も例にもれず、DXが進んでいるとはいえないようです。

「令和3年版情報通信白書」の「実施していない、今後も予定なし」59.3%、「食品製造業のDXに関する意識調査」の「取り組んでおらず、必要性も感じていない」26.8%といった数字を見ると、そもそもDXの重要性すら理解していない経営層が少なくないことが予測できます。

DXは、デジタルテクノロジーやデータを活用し、業務効率化にとどまらず、新しい価値を創出することで市場における競争優位性を高めるための取り組みです。

消費者ニーズの多様化や市場のグローバル化など食品業界を取り巻く環境は激化しており、従来のやり方に固執していては、企業の存続にかかわってくる可能性もあります。

DX推進は企業が生き残るために必要であることを、まずは経営者が理解し、全社員に意識改革を促すことが求められます。

なお、食品業界におけるDXは、同業界特有の課題解決策にもなります。どのような課題の解決策になりえるのか、このあと紹介します。

DXで解決が期待できる食品業界の課題

DX推進によって、食品業界に見られる次のような課題の解決が期待できます。

人手不足

労働人口の減少により、あらゆる業界において人手不足問題が慢性化しています。農林水産省のレポートでは、「平成29年度の飲食品製造業の有効求人倍率は 2.78 倍で あり、1.54 倍である全体より大きい」とされ、他業種以上に人手不足が深刻であることが示唆されています。

引用:食品製造業における 労働力不足克服ビジョン(PDF) | 農林水産省

人手不足により、ベテラン社員が自身の業務遂行に手いっぱいとなれば、知識や技術の若手への承継がうまく実行できません。マニュアルや教育体制が十分整っていないため、承継できないといったケースも考えられます。

そこで、DX推進やその前段階のデジタイゼーション、デジタライゼーションにより、次のようなかたちで人手不足の問題が解消することが期待されます。

  • 受注業務や発注業務などの事務作業を自動化することで、少ない人手でも作業を進められる
  • 生産ラインへセンサーやロボットを導入することで、技術や知識のない作業員でも一定以上のパフォーマンスを発揮できる
  • ナレッジ共有システムの導入により、時間をかけずに若手社員への知識・技術の承継ができる

DX、デジタイゼーション、デジタライゼーションの違いについては、以下をご覧ください。

【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで

品質管理

食品トレーサビリティは食品業界の恒常的な課題です。食品トレーサビリティとは、農林水産省の言葉を借りると、「食品の移動を把握できること」を意味します。生産から加工、流通といったそれぞれの工程での入出荷の記録などを保存しておくことで、なんらかの問題が生じたときに、回収や原因究明をスムーズにするための仕組みです。

また、2021年6月よりHACCP(ハサップ)が義務化されました。HACCPとは、食の安全を脅かすハザード(危害要因)を把握したうえで、製品の安全性を確保する衛生管理手法です。原材料の調達から製品の出荷に至る全工程のなかで、ハザードを除去あるいは低減させるために特に重要な工程を管理することで、製品の安全性を確保します。

トレーサビリティもHACCPも食品の品質管理を徹底し、安心安全な食を消費者に届けることが大きな目的です。

例えば、IoTやAI、ビッグデータなどのデジタルテクノロジーにより、原材料の調達から消費者の食卓までの一連の流れのなかで、食品の状態や移動ルートなどを可視化できるシステムを構築します。それにより、効率的かつ高いレベルの品質管理ができ、食の安全性を確保することが可能になります。

サプライチェーンマネジメント

適切なサプライチェーンマネジメントも、食品業界の恒常的な課題です。食品には消費期限・賞味期限・鮮度保持期限などの、安全を考慮したさまざまな期限があります。安全な食品が消費者に届くよう、また廃棄ロスを出さないよう、サプライチェーンの最適化を常に意識しなければなりません。

昨今ではサプライチェーンのグローバル化が進み、マネジメントがいっそう困難かつ重要になってきました。コロナ禍においても中国や米国からの物流が止まり、自動車部品や電子部品などが届かず、生産活動が停滞する事態に陥りました。

また、特定のサプライヤーとの結びつきが強くなりすぎて消費者志向ではなくなるといった問題も見られます。このような場合、市場ニーズの変化に気づくのが遅れて、市場競争で競合に遅れをとってしまいます。

IoTやAI、ビッグデータなどのテクノロジーを活用すれば、原材料の調達から生産、出荷、販売などの流れを可視化し、各工程の管理を最適化することが可能です。品質管理の課題解決策と同様に、DX推進がサプライチェーンにおけるさまざまな課題の解決につながることが期待できます。

ただし、理想的なサプライチェーンマネジメントは一社のみの取り組みでは実現が難しく、サプライチェーンにかかわりのある業界を横断しての取り組みが最終的には求められます。

食品業界におけるDX成功事例

前章で紹介した課題を解決し、DX推進を成功させた事例を紹介します。

S社

清涼飲料メーカーS社では、以前からデータの活用は行っていたものの、工程やライン単位での限定された活用にとどまっていました。そこで、工場全体の生産設備や調達、製造、品質管理、出荷といったITシステムから、あらゆるデータを収集・統合できる新工場を建設しました。製品ごとに製造や検査履歴情報などをひも付けて管理できるようになったことから。消費者から問い合わせがあった際にすぐに確認・対応することが可能になりました。効率的に食品トレーサビリティを確保でき、品質管理の徹底につながっています。

I社・N社

食品関連のサプライチェーンのなかでは、食品メーカーや卸売業者、小売業者などそれぞれが需要予測などに必要なデータを保有しているケースが多いです。しかし、それらのデータ連携ができておらず、サプライチェーン全体のマネジメントが困難でした。そこで、総合商社I社とグループ会社の食品卸売会社N社は、食品メーカーへの発注について、AIを活用した需要予測や発注最適化のためのソリューションを一部の拠点から試験的に導入しました。その結果、一定の効果が確認できたため、対象の拠点を全国規模に拡大しました。今後は、対象の顧客やカテゴリを拡大していく予定です。将来的には、食品卸にとどまらず、食品メーカーや小売におけるフードロスと機会ロス削減に寄与するサービスの提供をめざしています。

食品業界特有の課題解決のためにもDX推進に取り組もう

食品業界では、まだDX推進が進んでいるとはいいがたい状況です。今回紹介したDX推進の成功事例は日本を代表する大手企業の実績であり、すべての企業がいきなり同様の大規模な取り組みをするのは難しいかもしれません。

しかし、DXを段階的に進めていくことは可能です。例えば、身近な業務をデジタル化して効率化を図る、システム導入によって社内での仕入・出荷などの工程を管理するといったデジタイゼーション、デジタライゼーションに取り組むのです。

DXはデジタルテクノロジーの活用により新しい価値を創出し、激化する市場競争において打ち勝っていくための取り組みです。以前からあった食品業界特有の課題を解決する手段にもなります。

DXに積極的に取り組み、従来の課題を解決するとともに、これまでにはなかった製品やサービスを生み出し、市場での優位性を高めていきましょう。